院政を敷いて絶対的権力者となった白河法皇。
そんな彼でもどうにもならないコトが3つあったそうです。
「鴨川の氾濫・バックギャモンのダイス目・僧兵」
この中でも特に僧兵たちには困ってたようで、
コイツらは神輿や神木などの「御神体」を使って、政府に強引な要求をしたり、
ライバルの寺社たちで縄張り争いをしたり・・・・。
まるでヤクザ映画の世界。
そんなある夜。寺社どおしでカチコミが行われ、
一人の法師武者が弓矢を手にして、柿の木の下に立っていたら
上から熟した柿が法師の頭に落ちてきて、グチャーっと飛び散ります。
驚いた法師が頭に手を当ててみると、なんだかヌルヌルとした感触。
「な・・・なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
この法師。敵の矢が頭に当たって血が流れたモノだと勘違いしたのでした。
あまりにも大きな声で叫んだので、仲間が駆け寄って来ます。
「どうした?」
「やられた。頭を矢で射られたようだ」
で。仲間が彼の頭を触ってみると、たしかに手がべっとりと濡れます。
しかも月明かりで見てみると真っ赤。
「たしかに血が流れてるみたいだ。早く手当てしてもらわないと・・・・」
「いや。頭からこれだけの血が出てるなら、もはや助かるまい」
「しかし・・・・」
「もうダメだ。かくなる上は早く俺の首を落としてくれ」
仲間の説得を聞かず、何度も「首を落としてくれ」と頼む法師武者。
「そこまで言うのならば・・・・」
「か・・・かたじけない。恩に着る」
それで仕方なく仲間は法師武者の首をスパーン!
で。仲間は法師の首を包んで、法師の妻子のトコへ持っていきました。
事情を聞いた妻は静かに答えながら、包みを開いて首を見ます。
「そうですか。あの人も無念だったでしょうね」
ところが頭には全く矢傷の跡がありません。
「あのう。傷なんてどこにもありませんけど・・・・」
「あれ? おかしいなー」
臆病というのは非常に始末の悪いモノです。おわり。
これは「古今著聞集」に載ってるエピソードで
「弓取りの法師が臆病な事」っていう話。
こういうパターンって結構ありそうです。
誰も何とも思ってないのに、一人で早合点して右往左往。
ジタバタした挙句に自滅しちゃう感じ。
エピソードの法師武者って憎めない感じの良いキャラしてるのですが、
「臆病」の一言でバッサリ。
さすがにこの評価は可哀想ですよねー。
法師武者の気持ちが解かる人って、意外と多い気がします。